俺は占い師の爺さんに会いに行った。これからのことを占ってもらおうとしたのだ。爺さんがカードを取り出したその時、地面が不気味に揺れた。そして、俺と爺さんは背筋が凍るような声を聞いた。『待ちわびたぞ・・・』
アインガング城から人の姿が消えたという知らせが届いたのは、そのすぐ後のことだった。
城の通路にガンダウルフがいた。ガンダウルフは、俺にこの異変について説明してくれた。全ては、俺たちの世界(地球)からやって来た、悪意の塊「ヤールバトゥ」のたくらみだということ。不思議な結界に守られているアインガングへ侵入するため、ヤールバトゥが闇の力を持つカードを作ったこと。そして、俺たちカード使いに「闇のカード」に因んだ占いとクエストをさせ、結界を内側から破らせたこと。「悔やむのは後でもできる。今はヤールバトゥを止めることだけを考えるのじゃ」ガンダウルフはそう言って、俺を導いた。
城の中は複雑な迷路になっていた。ケルベロスなど、ブレスで全体を攻撃してくる危険なモンスターに何度も襲われた。盗賊ハッタタスや女戦士カナーンに足払いをかけてもらって、その隙に倒した。そして、城にいたのは敵ばかりではなかった。魔術師リンクと、ルフィーアの姉の予言者ヴィシュナスが、力を貸してくれることになった。
地中深くを目指して進んでいると、突然開けた場所に出た。「来たか」カガキの声だ。「よく聞け。こいつを助けたければ、お前のデッキを俺に渡せ」カガキは、カード使いのケンを人質に取って俺を脅してきた。そんなのに応じるわけないだろう! 俺はヤールバトゥを止めるために、ここまで来たんだ。「勇ましいな。しかし考えてもみろ。仲間一人の生命も救えなくて、お前は何を救おうというのだ?」・・・っ! カガキはケンの首筋に刃を押し当てた。やめてくれ! ケンを見殺しにはできない。俺はカガキを睨みつけながら、デッキケースを投げた。ケースは床を滑って、カガキのちょっと手前で止まった。「はははは! 友人思いだな。しかし、死ぬ順序が少々変わっただけのこと」カガキが刃を振りかぶる・・・騙された!「クソッタレがぁっ!」ケンがカガキの腕を振り払い、俺にデッキを蹴り返した。
次の瞬間、辺りが赤く染まった。「あかん・・・お迎えが来たみたいや。お前は来るな。ゆっくりでエェ・・・」ケンはばったりと倒れ、そのまま動かなくなった。・・・カガキ、よくも!「いい表情だ。憎しみが伝わってくる。俺を殺したいなら、本気で来るがいい」言われなくてもやってやるさ。お前だけは絶対に許さない!
俺は魔神シャイターンに突風を使わせ、カガキと取り巻きのモンスターをまとめて転倒させた。シャイターンは撃たれ弱いので、ガンダウルフのバリアの魔法で守った。アシストを受けながらがむしゃらに攻撃し、気がつくと、俺はカガキの胸を剣で貫いていた。「これでやっと・・・解放される・・・ありがとう」カガキは最期にこう言い残した。どうして、こんなことになっちゃったんだよ?!
ガンダウルフがホールの先を指し示した。そうだ、まだヤールバトゥがいる。止めなきゃ。
頭がいくつもある、黒いガスの塊。これがヤールバトゥを一目見た時の感想だ。ヤツは同じ世界から来た俺を取り込んで、完全な存在になりたがっていた。もちろん、お断りだ!
最後の戦いが始まった。この時のために、俺はヒートウォールを召喚しておいた。行けっ、倒れかかってヤールバトゥの動きを封じるんだ! ヴァルキリーが戦いの歌を歌い、ガンダウルフが得意呪文サンダーを唱える。俺も同じ相手を狙い、頭をひとつずつ潰していく。そして、ヤールバトゥは消え失せた。
息を切らせている俺のところへ、サトルとナツメ、アミが駆け寄ってきた。「あれ、ケンはどこ?」ナツメが言う。俺は、ナツメの顔をまともに見ることができなかった。「一緒に帰ろうって約束したのに、そんな!」俺もおんなじ気持ちだよ。
奥からアインガング王の呼ぶ声がする。俺は、もう振り返らずに、そっちへ走った。
気がついた時、俺は公園のベンチに座っていた。多分誰も信じないだろうけど、アインガングという異世界を救う冒険を終えて、地球へ、普段通りの生活へ帰ってきたんだ。
「なぁ、このカード、お前んちゃう?」聞き覚えのある声がした。
えっ・・・?!
【Fin.】