世界中を震撼させた『エデンの乱』よりしばしの後――

　首謀者とされた少女ジェシカ・Ｅ・フリートは、収監され裁判の始まる時を待っている。幸い情状酌量の余地ありとされているから、近い将来ストームナイトと手紙をやり取りすることも可能になるだろう。
　一方、孤島エデンへ核ミサイルを発射したアメリカ合衆国大統領デニス・クォーターメインはというと、真相究明と責任追求を望む声をのらりくらりとかわし続け、今も変わらずその地位にある。今回の件で彼が生った政治的ダメージは決して小さくないが、リビングランドの軍勢による大侵攻などが折り良く（？）重なり、かろうじてアメリカ国内での立場を守ることに成功したのである。

　乱の当時、エデンには多くの人々が身を寄せていた。彼らは、彼らを生命の危機から救ったストームナイトたちの活躍を、世界の各地で語り継いだ。
　物語を伝え聞いた人々の胸に、“希望”という名の灯火が点り、
　緩やかに、だが確かに、世界は変わり始めようとしていた。

　しかし、“その男”にとって、そのような英雄譚は何ら意味を持たなかった。
　「楽園なんて、何処にもない」・・・胸を満たすは、深くて暗い闇。

Prologue

真っ黒い画面に光が現れる
　光は明滅を繰り返し、やがて連続した流れとなる
　流れは網目状に分岐して画面を覆い尽くし、電子回路の形を取る
数字の０と１が流れ、あちこちの世界の映像が挟み込まれる
　――ひとりの男がデスクトップＰＣでネットサーフィンに興じている
翻訳ソフト「Yetzirah」を起動すると、あらゆる国の言語が英語に訳され
画面に現れる
男は感嘆の声をあげ、さらにネットサーフィンを続ける
タスクバーが呼び出しを要求する点滅を始める
それに気付いて、男はタスクバーからソフトを立ち上げる
と、突如画面がブラックアウト、DOS-Vマシンのように文字が流れ始める

　　・・・去來《いざ》我等降《くだ》り
　　彼處《かしこ》にて彼等の言語《ことば》を
　　淆《みだ》し 互に言語《ことば》を通ずることを得ざらしめん・・・

画面を見ていた男が突然、喉をかきむしり苦しみ始める
やがて男は横向きにどうと倒れ、虚空を見つめたまま動かなくなる
最後に男の指がタイプした文字は――

「Ｂ・Ａ・Ｂ・Ｅ・Ｌ」

【ＣＡＳＴ】

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