TORGマスターレポート

『Dawn Before Long』

 

限りなく今に近い未来………
今夜、あるいは明朝、さもなければ来週……ほんの少しだけ未来の物語

 


Prologue

 
 あれは、2002年8月3日、セッションを終えて食事をしている時のこと。
「今年のオンリーコン、10月に決まったんですけど、マスターやる人がいなくて。しゃあみさん、いかがですか?」「え? 私、一度もコンベンションでマスターやったことがないんです。時間管理とか不安・・・。『夜明け前』改訂版とかで良ければ考えますけど・・・」「じゃお願いしますねー」「嘘、決定ッスか?」

 こうして私は、ゲームマスターの準備をすることになった。
 


 
 『夜明け前』とは、TORG基本ルールに収録されており、「ストームナイトとはどんな人々かを理解し,TORGの世界に慣れることができるように作られてい」るシナリオだ(ルールブックより抜粋)。ストーリーは以下の通り。
 

突如として自転を止めてしまった地球。ストームナイトは、リビングランド(北米)でエディーノスに追われていた少女を助ける。彼女と彼女の父親は、ナイル帝国(エジプト)のエージェントに伴われてここまで来たという。ナイルは、ここリビングランドで「地球の自転に関係のある何か」を手に入れようとしているらしい。ストームナイトはエージェントと闘い、彼女の父親を無事救出する。

父親の口から、世界の何処かにある「地獄のマシン」と呼ばれる機械が自転を止めていること、そしてナイルのDr.メビウスが機械(に蓄えられたエネルギー)を狙っていることを聞かされたストームナイトは、「地獄のマシン」の在処を知るためにナイルの秘密基地を急襲する。地図上に示された「地獄のマシン」の位置は・・・オーロシュ(東南アジア)! 丁度おあつらえ向きに装備と燃料が積まれた輸送艇を奪取し、追っ手の飛行機とドッグファイトを繰り広げながら、ストームナイトは東を目指す。

地図に示されたその場所では、海が渦を巻き、禍々しい気配を放っている。潜水服に身を包み、意を決して海中へダイブすると、巨大な人食い鮫、デンキウナギ、そしてデーモンが次々に現れる。その全てを退けて辿り着いた海底、沈没した海賊船の甲板で、不気味に唸る「地獄のマシン」。ストームナイトは海賊の亡霊と闘いつつ、機械を逆回転させて地球の自転を回復させる。
 

 とまぁ、確かにオイシい要素は満載だが、フルにやると異様に長い。コンベンションで使うためには大幅に刈り込む必要がある。
 そこでまず、ナイル帝国編をすっ飛ばしてリビングランドからオーロシュに直行させることに決めた。機械の場所については、ナイルで一番有名なコミックリリーフ的悪役に喋ってもらえば何とかなる(笑)。あ、彼と対称的に格好良い悪役も出したいなぁ・・・。
 もう一つ思ったのが、巻き込まれ型より依頼の方が時間短縮になるんじゃないかなー、ということ。これはニッポンテックキャラ対策でもある。報酬を受け取らないと動かないストームナイトが仮にいた場合、他のパーティメンバーが説得するだけで時間を使ってしまう。そうなるくらいなら、〈説得〉判定をさせ自分で報酬を確定させた方がいい。依頼人は・・・あのレルムにすると「それっぽい」かも(にやにや)。

 紆余曲折を経て、私流『夜明け前』は1本のシナリオとして完成した。
 


 
 そして2002年10月14日、コンベンション当日。
 めちゃめちゃ緊張しながらホワイトボードの前に立ち、シナリオについて話す。

「『夜明け前』というのは、基本ルールに載っているシナリオで、恐らくストームナイトが最初に迎える地球の危機です。今日はそのシナリオのアレンジ版をプレイします。大変申し訳ありませんが、初心者の方、又は『夜明け前』未プレイの方を優先させていただきます。プレイしたことある方の参加を禁止はしませんが、充分に楽しめない可能性がありますので」

 これだけ限定して果たしてプレイヤーは集まるのだろうか、と心配したのも束の間、卓は成立してしまった。男性2名、女性2名の計4名。TORGのプレイ経験について尋ねたところ、全くの初心者という方は誰もいなかった。すげぇ楽だー(笑)。一応確認のためにレジュメ(表面は行為判定や用語集、裏面はレルムの場所を書き込んだ世界地図)を配って、世界の説明を軽く行い、同時にキャラも選んでもらう。
 


 
 皆さんのチョイスは以下の通り。

泥棒ではなくて自称トレジャーハンターのリック(盗賊/アイル)。
パーティ最年長、たくましい流しの女兵士メアリィ(傭兵/コアアース)。
元は捨て子で、チンパンジーに育てられたシンバ(ジャングルの王者/ナイル)。
イスラム教の敬虔な信者、祈りを欠かさぬ高月 亮(聖職者/コアアース)。

 比較的バランスがいいパーティと言えるだろう。これならラスボスと正面から戦っても被害を最小限に抑えられそうだ(書き忘れていたが、「恐怖の力」ルールをきちんと適用するので、ダイス目次第では全滅の危険性もある)。うん、きっと何とかなる!

 そんな根拠のない自信を胸に、初心者GMはシナリオの開始を宣言するのだった・・・。
 


Act 1

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