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TORGリプレイ

『Be Strong』

第三幕

 
シーン2 開眼

 
 オリンピアの開幕が近づくにつれ、辺りはお祭り騒ぎの様相を呈してくる。
 テレビカメラが、観客が、主役の登場を待ち構えている。
 しかし、選手控室に、主役のひとりであるはずの強力の姿がない。
 

強力:あのね、プールで仰向けに浮いてる。

GM:宇宙に浮いてる感じですか。

強力:そう。出たい人はどうぞ。

ディ:「ストロング。ここにいたか」

強力:「ああ、ディアンか」

ディ:「何が見える? そこから」

強力:「天井だ」

ディ:・・・・・。

強力:「心配して来てくれたんだろう?」

ディ:「ストロングから聞かれたことに、まだ答えていなかったから」

強力:「何だったかな」

ディ:「強さとは何か。オレは、強さとは、乗り越えることだと思う」

強力:「ふむ」

ディ:「オレの今までの行い。うまくいかなくて、悔しかったこと。どんなに当たっても倒れない相手。だからオレも、もっと強くなりたい」

強力:「何故それで、強さを高めなくてはならない?」

ディ:「譲れないものがあるからだ。オレは、オレの手に届く全てのものを守りたい」

強力:「・・・・・」チャポン、と姿勢を変えて、プールから上がってきます。「気づいたことがある。俺はもう充分に強くなった。その上で、不要な強さを求めすぎたんだ」

ディ:??

強力:「あー、わかりにくかったか。(すごく優しい口調で)俺は、角力取りであろうとした。横綱であろうとした。お前のところの言い方だとチャンピオン。部族の長(おさ)」

ディ:・・・・・。

強力:「だけどな、俺はそんなことをしなくても角力取りで横綱だったんだよ。余計なものを背負いすぎていた。だから俺はもう強くならない。当てもなく強くなることはない」

ディ:「なら、何を目指す?」

強力:「何も目指さなくていいんだ。何も目指さなくても世界はここにあるし、俺はここにいる」

スレブ:・・・・・。

強力:「あるがままを受ける。あるがままを返す。必要な分だけの力を持って、先に進む。どうした? 何か、信じられないものを見るような顔をしているぞ」

ディ:「(息をついて)ストロングは、いつまでも、オレの、先を行く、兄のようだ」

強力:「そんな大したものじゃない。もっとお前には見るべきものがあるだろう」
 

 軽口を叩く強力。ディアンは、強力の目に光が戻っていることに気づく。
 選手控室で彼が纏っていた、険のある空気も消えている。
 

強力:見るとですね、筋肉の感じが変わってるんですよ。ゴツゴツした筋肉から、カモシカのような筋肉になっている。

スレブ:しなやかー、な。

強力:「これに気がついてから、苛立ちも怯えも何もなくなった。目の前のものを受け入れて、もはや立ち向かう必要もない。そう在るようにすればいい。・・・俺は、帰ったら角力を廃業する」

ディ:「! やめる、のか」

強力:「ああ。俺にとっての角力は、廃業しても、どこに行っても、どのような生き方を選んでも、もはや、俺から離れることはない。俺は、角力取りになれたんだ。たった今」

ディ:「・・・すまない。ストロングの話は、オレには少し、難しい」

強力:「いつか気づくだろう。お前が何も考えなくても、周りの者を守れるようになり、何も考えなくても騎士として振る舞えるようになる。その時がいつか来るだろう。俺は、そこに今、やっとたどり着けたんだ」

ディ:「そうか」

強力:と言って、おもむろに洗面台へ行き、カミソリでヒゲを、ちゃっちゃかちゃっちゃか剃り始めて、「やはりこちらの方がいいな」

ディ:支度が終わるまで、黙って待っています。

強力:「手伝って欲しいことがある。やり方は教える。俺の、髷を結ってくれ

ディ:!

アン:おおー。

GM:いいですねー。

ディ:「こ、こうか?」髷を結う判定って、技能は何でしょうね。

GM:〈芸術〉とかですかね(笑)。

強力:まぁ、事細かに説明するんで、判定は不要だと思います。

GM:時間は掛かったかもしれないけど、綺麗に結えました。

強力:「さすがにこれがなければ、格好がつかないからな」よく知っている強力の姿になります。

ディ:「長い髪だな。それだけ長い年月、ストロングは、角力を取ってきた」

強力:「ああ。だがそれも今日で終わる。俺はもう角力を取ることもない。俺がやることが角力なんだ」
 

 同じ頃、眼下の闘技場を睥睨する、エジプト角力の横綱、ネテル。
 傍に立つナタティリが、彼の髪をくしけずるように整えている。

「俺はもう、髷を結うことはない。俺が取るのはエジプト角力だ」
「ねえ、角力って何なの?」
「それに答えることは難しい。
 だが、ある一定のラインに到達した者、その行いの全ては、角力なんだ。
 力士とは、力に愛し愛される者。故に、人は俺たちを呼ぶのだ。おすもうさん、と!」
 

強力:全ての支度が終わってから、ふうー、と溜息をつき、「お前に言っておきたいことがある。お前は、そうあろうとしなくても、既に騎士だ」

ディ:!

強力:「騎士であろうとして、必要以上に何かを求めて、手から何かをこぼすことのないように。・・・俺がそうしてしまったように」

ディ:・・・・・。

強力:と言って、一度、四股を踏みます。それは、完璧な四股です。

GM:美しい所作でした。

強力:前に見た時の四股は、地面を踏み締めるものだったんだけど、揺れが全くない。

スレブ:ストン。

ディ:「大地に気を、戻さなくて、いいのか?」

強力:「その必要もない。俺がここにいるだけで、それは為されている」

ディ:「ストームナイト・ストロング! 頼みがある」

強力:「何だ」

ディ:「角力に勝って、世界を救ってくれ」

強力:「何も心配は要らない。結果的にそうなる」と言って、綺麗な所作で、戦場へ向かっていきます。

スレブ:じゃあ、綺麗な四股によって、神の気を感じたのか、後ろからスッと現れます。「高い山が戻ってきた・・・! 我が挑戦したかったのは、あの山だ!」

GM:要するに、横綱とは神の依代であり、現世に降りた神そのものである、というのが、ただのお題目ではないと、今ここに証明されたわけです。

アン:あれですね。神が棲まうもの、おすもうさん。力そのもの、力士。

強力:そう。

GM:これは、彼の精神性が高まっていることも勿論ありますし、儀式に向けて、信仰アクシオムが高まっている、という現実もあります。

強力:色々複雑なものが絡み合ってる。

ディ:空気が研ぎ澄まされてきた、と、オレも感じるだろうな。

スレブ:輝きし、白き頂だ!

 
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