TORGお題つきシナリオ

『桃缶・サバイバル』

Last Updated:2004.01.03
 

 それは、久しぶりに昔の仲間とTRPGをやるために、地元へ帰った日のことでした。

私:「相変わらずTORGで遊んでるよー。三題噺シナリオとかやってるよー」
友人:「面白そうー。私にもお題出させて!」
私:「いいよ。あんまり無茶なのでなければ」
友人:「わーいわーい。んっとねぇ・・・桃缶! シナリオタイトルは、『桃缶・サバイバル』でよろしく」

 ・・・充分無茶なお題でした(泣)。けど、せっかくだからこのお題に挑戦してみたいと思ったのも事実。リビングランドソースブックを開いていたら、運良く使えそうなネタを見つけました。

 なお、以下のシナリオはフィクションであり、実在の人物、国家、企業等とは無関係であることを、ここに宣言いたします。
 

→実際のプレイ風景 : 2003.11.23


はじめに

 アメリカ合衆国南東部、ノースカロライナ州の港より、
 フィラデルフィアに向けて出航する輸送船「USSチャレンジャー号」。
 アナポリス(アメリカの海軍士官学校)出身の情熱的な女性、
 メアリー・マーシが船長を務めるこの船は、
 コアアースのハードポイントであるフィラデルフィアへ物資を運び、
 帰りに避難民たちを乗せてレルムから連れ出す、という航海を毎月行っている。
 乗組員はポシビリティ能力者かつその道のプロばかり。
 メアリーは、危険な航海を乗り切れる才能ある乗組員を、いつも捜している。
 

地球で、限りなく今に近い未来………
今夜、あるいは明朝、さもなければ来週……
ほんの少しだけ未来に、起こるかもしれない物語。
 

ストーリー

第一幕

 季節は晩秋、感謝祭を間近に控えたある日のこと。
 ストームナイトは、リビングランドを横断する輸送船「USSチャレンジャー号」の乗組員として雇われます。報酬は、ひとり4,000ドル(約45万円)と比較的高額です。請け負った仕事は、船でデラウェア川を遡りフィラデルフィアを目指す途中で待ち受けているであろう荒事への対処、及び積み荷を守り抜くことです。
 船長のメアリーはストームナイトに二名の乗組員を紹介します。ひとりは舵手のヤーニャ(眼鏡の女性)、もうひとりはヒャクタという名の気弱な少年(水兵の服装)です。

 積み荷の中をよく見ると、大量の桃の缶詰が含まれています。これはメアリーの個人的な体験に基づいています。幼い頃、具合が悪い日に父親が買って帰ってきてくれた桃缶・・・。甘酸っぱい忘れられない味・・・。彼女は、感謝祭の日に避難民の子ども達へささやかなごちそうを持って行ってあげたいと思い、半ば強引に桃缶を積み荷へ加えたのでした。

 船出から3日目の夕方、見張りをしていたストームナイトは、8本の触手を持つ水棲球根・トラダが船を絡め捕ろうとしていることに気づきます。既に数本の触手が船体に巻き付いており、船は通常の半分程度の速度しか出せなくなっています。逃げ切るためには、トラダの触手を切断し、水中の胴体へ攻撃を加えなければなりません。
 戦闘の最中、トラダの触手が甲板の隅に積んであった桃缶のダンボール箱を跳ね飛ばします。そして、桃缶を守ろうとしていたメアリーも、バランスを崩して水中へ転落してしまいます!
 

第二幕

 非常事態です。船長のメアリーが行方不明になってしまいました。彼女を探すか? 先を急ぐべきか?「ボクひとりでもメアリーさんを探し出します!」と強く主張するヒャクタ。ヤーニャは難色を示しますが、最終的には、航海日程を3日だけ遅らせる(3日間捜索して発見できなければ諦める)という条件でヒャクタを送り出します。そして、ストームナイトにもメアリーの捜索を依頼します。
 「あっ、ちょっと待って。これ、お守り代わりに持っていってください」出発の間際、ヤーニャは桃缶を2個ヒャクタへ手渡します。

 この幕で、ストームナイトはヒャクタと共に食糧を調達しつつメアリーの捜索を行うことになります。
 1日に必要な食料は「ストームナイトの人数+2(メアリー、ヒャクタ)」人分です。これに満たなかった場合、食事を摂れなかったキャラクターは、1レベル負傷します。
 メアリーを発見するための判定は、昼と夜に各1回行います。彼女は、トラダに襲われた場所から少し河を下ったところの支流の岸辺に流れ着いています。重傷を負っていますが、発見されたのが2日目以降の場合は軽傷まで回復しており、ジャングルの中を自力で歩くことができます。

 無事メアリーを発見しても、ストームナイトには次なる試練が待っています。GMが行う〈方位感覚〉判定です。判定には、最も《知覚》が高いキャラクターの技能基本値を使います。判定に成功するまで、ジャングルの中を彷徨い続けることになります。(→第三幕)

 判定に成功すれば、船はもう目の前です。その時、規則正しく薮の踏み潰される音が聞こえてきます。振り返ると、身長4mほどの巨大なトカゲ・ロクリトスクが、発達した後ろ足でカンガルーのようにジャンプしながら迫ってきます。
 「ここは任せてください!」突然ヒャクタがメアリーを背に庇い、仁王立ちになります。手には懐から取り出した桃缶。彼は信じられない握力で桃缶を握り潰し、次の瞬間悲鳴を上げます。「うわぁ、桃が腐ってる! これじゃ変身できない!」そう、彼の正体は桃を食べて超パワーを発揮するヒーローだったのです。しかし変身できないとあっては、ストームナイトが何とかするしかありません。
 

第三幕

 深い霧のせいで道に迷ってしまったストームナイトたち。何とか船まで帰り着くために、五感を研ぎ澄まして歩いていると、霧の向こうから複数の男たちの声が聞こえてきます。
「よし、ここらで休憩するか。もう少し歩けば、さっき殺した野郎が言っていた村に着けるだろう」「銃もないような、しけた村だったらどうする?」「決まってるだろ。女でも食い物でも、奪える物なら何でも奪う。それが真の男(リアル・マン)さ」
 声の主は、サバイバリストと呼ばれる、粗暴なコアアース人の一派です。彼らに接触するなら、必ず揉め事(戦闘)になります。

 サバイバリストとの遭遇後、さらに霧の中を進んでいくと、突如眼前に集落が現れます。そこは、レジスタンスたちの隠れ村でした。村にいるのは女性ばかり。男性の戦士はみんな狩りに出てしまっていると言います。つまり、今この村に、戦える人間は一人もいないのです。

 程なくサバイバリストの襲撃があります。ストームナイトが手を貸さない限り、村民は皆殺しにされるでしょう。サバイバリストから村を守りきることができれば、女性たちは非常に喜び、食料、応急手当てキット、道中で紛失した物資(武器の場合は代替品)を分けてくれます。
 

第四幕

 紆余曲折を経て、USSチャレンジャー号はようやくフィラデルフィアへ到着します。
 荷の積み下ろしをしていると、いつの間にかヤーニャの姿が消えています。そして、ヒャクタが困惑した表情で話し掛けてきます。「さっきひとりで出て行ったんです。何だかボク、胸騒ぎがして・・・」
 その時、時計台の鐘の音が響き渡ります。しかし今は鐘の鳴る定時ではありません。何らかの異変が起こっているようです。ストームナイトは街の中心部へ急ぎます。

 ヤーニャを発見した場所、そこはフィラデルフィアのシンボル「自由の鐘」の前でした。眼鏡を外し、腰に大判のスカーフを巻き付けた彼女は、手にタバコ入れを持ち、腕組みをして立っています。「ようこそ坊やたち。けどちょっと遅かったわね。この鐘は私、ナイル帝国総督ジャンヤ・パテルクシが戴いて行くわ」彼女の言葉と共に、鐘の周囲に電気のネットが張られます。ナイル出身のキャラクターには、そのネットが【テレポーテーション】装置であることが判ります。

 「そんなことさせないぞ!」叫ぶヒャクタ。「勇ましいわね。けど坊やに何ができると言うの?」「こうだっ!」彼は懐から桃缶を取り出すと、信じられない握力で握り潰し、中身を一気に口へ流し込みます。すると・・・彼の全身を包む筋肉が肥大化し、水兵服が千々に弾け飛びます。遂に変身ヒーローである彼の真の力が発揮されるのです。
 しかしジャンヤは落ち着き払って言います。「なるほど、それが貴方の切り札というわけね。でも貴方は、ひとつ致命的な失敗をしたわ。今貴方が食べた桃缶、それは船長を捜しに行く前に、私が貴方に手渡した物。どういうことか解るわね?」
 「?!」ヒャクタは濁った目をしてストームナイトへ向き直り、ファイティングポーズを取ります。「いい子ね。さあヒャクタ。邪魔なストーマーを殴り倒してちょうだい」

 【テレポーテーション】装置のエネルギー充填が終わるのは90秒(9ラウンド)後。それまでに装置を止められなければ、ジャンヤは「自由の鐘」を持ち去ってしまいます。装置のキーはタバコ入れです。ストームナイトは【マインドコントロール】されたヒャクタの相手をしつつ、タバコ入れを奪って破壊しなければいけません。
 

おわりに

 上記シナリオの第三幕は、私のオリジナルではありません。『リビングランドソースブック』に掲載されていた「エピソード:レジスタンス村の危機」(106ページ)を参考にしてまとめました。プレイ時間に余裕があり、かつプレイヤーに戦闘を楽しんでほしい場合にのみ、おまけエピソードとして挿入すると良いと思います。
 ところで、ヒャクタの名前の由来、お判りになりましたでしょうか? 漢字で書くと「百太」、百は「もも」とも読みます。つまり、桃太郎のもじりです。
 


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