Eternal Smile > Christmas Carol
TORGプレイレポート
『Christmas Carol』
第一幕
シーン2
「私、ジェシカっていうの。貴女は?」
銀行強盗が逮捕されるのを見送った後、金髪の女性が話し掛けてきた。妙にフランクな口調だった。
「牧野芹奈と申します」
「そう、セリーナっていうの。素敵な名前ね」
一瞬、何を言われたのか解らなかった(*6)。まるで口説かれているかのように錯覚した。
「強盗を前にしての、あの度胸。やっぱり貴女も、アレなんでしょ? ストームナイト」
ああ、なるほど。このジェシカという女性は、私が同類であるというのを確認したかったようだ。
パトカーの隣では、銀行に居合わせた不幸な親子が、騎士のカイルさんとキャプテン・ライトニングさんに、何度も頭を下げていた。
ぱっとしない、もっと言うならば、見るからに貧しそうな男性は、冬木武雄(ふゆき・たけお)氏。息子さんは幸雄(ゆきお)くんといって、キャプテンに特に懐いていた。
「これはお礼です」
冬木氏が財布を取り出そうとした。カイルさんは受け取れませんと断った。
・・・アイルの人って、本当にこういう人たちばっかり!
不意に克己の顔が脳裏に浮かび、気づいたら私はカイルさんの手をとっていた。
「あら、労働の対価を受け取るのは、正当な権利ですよ?」
これだけ言っても、カイルさんとキャプテンは渋っていたので、ジェシカと私が代わりに受け取った。
銀行から人がやって来た。強盗を撃退してくれた私たち四人を、表彰したいとの事だった。これ以上ニッポンで目立つことは避けたかったので、私はそっと去ろうとしたが、ジェシカが「セリーナも来るでしょ? ええ、来るって」と、勝手に返事をしてしまった。何だか、ペースが狂うわ・・・。
シーン1
私たちは、銀行が用意したホテルに一泊した。
12月21日、朝。ホテルを出たところで、一台のリムジンが目の前に停車した。
「やあ、皆さんお揃いで。その節はお世話になりました!」
降りてきたのは、冬木氏と幸雄くんだった。毛皮のコートに金の指輪。昨日とは比べ物にならないような、にわか成金趣味のいでたちだった。服に着られている、という印象だった。
「これからホテルで昼食なんですが、どうです、一緒にいかがですか? 昨日のお礼に御馳走しますよ」
明らかにおかしい。昨夜私は、冬木武雄氏のパーソナルデータを調べさせてもらったが、彼の職業は絵本作家。こんな豪遊が可能なだけの、印税収入があるとは考えられない。
「幸雄も是非にと言っています」
幸雄くんの名前を出されると断りづらい。当の幸雄くんも、カイルさんとキャプテンに、すがるような瞳を向けていた。この変貌ぶりには、きっと裏がある。
宴席は、スシ・テンプラ・サシミ、そして多数のコンパニオンを侍らせた、時代錯誤なものだった。小学生の少年には、教育上よろしくない光景だった。さらに、コンパニオンに喜んでお酌をさせているジェシカの神経が、私には理解できなかった。
ぶしつけだとは思ったが、早めに口火を切らせてもらった。
「とても景気がよさそうですわね。もしよい投資先をご存知なら、私にも教えていただけないかしら」
「いやァ、株で、儲けましてね」
「どちらの?」
「そりゃァ貴女、天使様のお導き・・・おっと」
冬木氏は、慌てて口をふさぎ、誤魔化すように日本酒をあおった。
私は、盗聴器を場に仕掛けて中座した。ラップトップコンピュータを開き、ハッキング開始。
冬木氏の言うような、大きな株の値動きなど存在しなかった。彼の銀行口座を調べたところ、入金履歴とは無関係に、残高が桁違いに増えていた。文字通り、誰かが数字をいじったとしか思えなかった。
幸雄くんの声が聞こえてきた。カイルさんとキャプテン相手に、身の上話を始めたようだ。
『おすしは、好きだよ。食べるのすごく久しぶり。お母さんがまだ生きてたころ、三人で食べた』
『昨日、きみのお父さんと会った時には、失礼だが、かなり困っているように見えた。だが今日はまるで別人だ。何かあったのかい?』
『お父さんは、天使様が助けてくれた、って言ってた。神様なんていない、この世は“おふせ”で決まるんだ、って』
『む・・・』
この低い声は多分カイルさんだ。アイルの人たちは信仰心が篤いから、幸雄くんのドライな物言いが気に入らないのだろう。
窓の外を見ると、サンタクロース姿のアルバイトがケーキを売っていた。
『僕の家には、サンタは来たことがないんだ。貧乏な家には来ないんだって、お父さんが言ってた』
また、随分と生々しい教育を、冬木氏はしているのね。少し幸雄くんのことが可哀想になった。
『だからサンタさんに手紙を書くつもり。今年はお金があるので、お家に来てくれるとうれしいです、って』
私が席に戻ると、赤い顔の冬木氏が言った。
「お連れのお嬢さんは、大丈夫かな。トイレに立ったまま戻らないんだが」
どうも、ジェシカも私のすぐ後に席を立ったらしい。悪酔いしてのびているのではないかと心配になり、化粧室を見に行った。
「ジェシカさん? 大丈夫?」
「あっ・・・」
個室から、形容し難い声が聞こえてきた。同時に背後で雷鳴が轟いた。冬の嵐? そんなバカな。突風が吹き、個室のドアがバタンバタンと激しい音を立てた。ちょっと待って、私こういうの駄目なのよ。怖くて、とてもこんなところにいられない!
「ジェシカ! 私、先に戻るからね!」
恥も外聞もなく、私は化粧室から逃げ出した。
シーン1−2(おまけ)
このシーンでジェシカが試みようとしていたのは、〈推理〉技能で「天使様」の正体を知ることだった。〈推理〉は、オーロシュ独自の技能で、一種魔法に似たところがある。判定に成功すれば、わずかな手掛かりから一足飛びに真相へとたどり着くことができる。
ただし、〈推理〉を行うには条件がある。誰にも邪魔されない場所で、1時間以上思索に耽らなくてはならないのだ。だからと言ってトイレの個室にこもらなくても、ねぇ(笑)。
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