ナイル帝国総督ミルトン・アブリー卿はご満悦であった。
隣に座るメアリィは、それとなく彼に探りを入れてみる。
「一体これから、何処へ行くんだい?」
「これから? 卵と一緒に、東南アジアまで遠出だよ」
答えるアブリーの表情は何故か険しい。
と、突如響く銃声。次の瞬間、ジープはコントロールを失って道端の木に激突する。
「貴様のような悪党に、俺のシマでうろつかれるのは迷惑だ。失せろ」
低い声と共に霧の中から姿を現したのは、ストームナイトがニューヨークから連れ出そうとしていたその人、ニューヨーク市警ベネディクト・アトキンス。
「くっ・・・彼女に免じて今回は見逃してやる。
だが私は諦めない! その卵は必ず私がいただく!」
そう言うとアブリーは、マントを翻しジャングルの中へ姿を消す。
第一幕
シーン2 闇取引
ベネディクトの道案内で、メアリィが先程の宝石店の前に戻ると、心配そうな顔の3人が待っていた。
亮:「やっぱりさっきのは作戦だったんですね! 卵を取り返して、しかもベネディクトさんと合流までするなんてさすがです!」
メアリィ:「ははは・・・」(引きつった笑い)
ともあれ、これでニューヨークへ来た目的は両方とも果たしたことになる。
メアリィ:「フィラデルフィアへ戻ったら、まずはこれを宝石店の主人に渡して・・・」
GM/ベネディクト:「宝石店? 何の話だ?」
依頼について話すと、彼は怪訝そうな顔をする。「妙だな。俺はあの店の主人を長く知っているが、日本人ではない。生粋のアメリカ人だぞ」
亮:「とすると、どうして名前がロマノフ・オオサト、なんて嘘ついたんでしょう?」
リック:「いや、違うと思うぞ。逆だよ、俺たち騙されたんだよ」
GM/ベネディクト:「お前たちは依頼人の裏も取らなかったのか」(少々呆れ顔)
ここであれこれ推測していても埒があかないので、ストームナイトは直接オオサトを問い質すためにフィラデルフィアへ向かう(因みに、ベネディクトも付き合ってくれる)。待ち合わせ場所は特に決まっていなかったので、こちらから連絡し、ホテルや空港ロビーなどで落ち合うことになりそうだ。
アメリカ独立の象徴たる都市フィラデルフィア。ここは、リビングランドレルム内でありながら、地球(コアアース)のリアリティを堅持している場所である。
一息つくために車を停めた時、リックが、こちらの様子を窺っている者がいることに気づく。小声で警戒を促し、メアリィと2人で追跡開始。屋根伝いに逃げていく黒い影。どうやら金輪の忍者のようだ。忍者は、とある駐車場に停めてあるトレーラーの中へ姿を消す。トレーラーのどてっ腹には、非常に解り易く「Goldring(金輪)」と書かれている。そっと聞き耳を立ててみると、中から1人の男――オオサトの声がする。彼の口調は依頼の時と明らかに違う。言葉の端々に、人の上に立つ者の持つ風格が滲み出ている。
GM/オオサト:「ウー・ハンへ連絡を取れ。・・・こちらは大郷(だいごう)だ。取り引きの時間と場所を指定したい」
リック、メアリィ:「!」
大郷と名乗った男はこう続ける。「ファベルジュの卵は、程なく手に入る。二時間後、埠頭にて引き渡す」
どうやら彼は、偽名を使ってストームナイトへ近づき、自らは手を下さずに卵を手に入れ、さらにそれをナイルへ売りつけて一儲けする心積もりだったらしい。顔を見合わせて黙り込む2人。
と、メアリィの懐で携帯電話が震えだす。そっと電話に出ると、受話器から聞こえてきたのは『私です、オオサトです』。さすがにトレーラーのすぐ外にメアリィがいることには気づいていない。
メアリィ:「少々トラブルがあって、まだ確保できていない。現在ニューヨークにいる」
GM/大郷:「ほう?(少し含みを持たせて)では迎えの者を遣りましょう」
電話を切ると、2人は大郷に見つからぬよう急いで車まで引き返す。
同じ頃、シンバと亮は、ベネディクトの許可を得て宝石店から持ち出した文書へ目を通したり、匂いをかいだりして、「ファベルジュの卵」について調べていた。その結果、美術品としての価値は相当高いが、ポシビリティ・エネルギーは有していないことが判る。もし卵がポシビリティを秘めている(=エタニティ・シャードである)ならば、ナイルや金輪がこれを求めて行動を起こしていても不思議はないのだが・・・それでは何故?
メアリィがアブリーから車の中で聞き出したところによると、彼は「ファベルジュの卵」をオーロシュへ持っていく予定だったらしい。もしや卵自体に何か恐ろしい力があるのではないか。微かに恐れを抱きながら亮が卵を眺めていると、だんだんそれが地球に見えてくる。そして、地球の東南アジアの位置に、小さな光が現れる。
亮:「シンバさん! これ、見てください!」
その光は2人の見守る前で衰え、次に、現在地フィラデルフィアの辺りが薄ぼんやりと輝く。亮の顔つきが変わる。彼は、決してこの卵から目を離してはいけないと感じたようだった。
再び合流したストームナイトは、ナイルが何をしようとしているのかを探るため、そして大郷への仕返しも兼ねて、「ファベルジュの卵」のニセ物をこしらえることにする。本物を渡す気はさらさら無いが、「奪われちゃいました、すみませーん」と言ったところで解放されるとも思えないからだ。亮が宝石店から持ってきた鑑定書をつけて渡せば、それほど疑われないだろうという読みもある。
さっき嘘をついていたことがばれないように、メアリィは大郷に電話を掛ける。
メアリィ:「少しでも早く欲しい様子だったので、手に入れてから直接フィラデルフィアの方へ戻ってきた。指定してくれればそこまで届ける」
GM/大郷:「それでは、空港のロビー・・・あ、いえ、埠頭にしましょう。1時間後に、お待ちしております」
そして1時間後。「ファベルジュの卵(ニセ物)」を手渡すと、大郷は心底喜んだ様子で、アタッシュケースを開いて中身を確認させてからメアリィに渡す。
GM/大郷:「本当にありがとうございました。これを見ていたら、もう一度商売をやり直す勇気が湧いてきました。残りの金は口座に振り込みます」
引き渡しは拍子抜けするほどあっさりと完了。そのまま物陰に潜んでしばらく待っていると、アブリーが乗っていたのとは色違いのジープが大郷の近くに停まる。ナマズヒゲにチャイナ服が印象的なナイル帝国総督、ウー・ハンのお出ましだ。
GM/ウー・ハン:「こ、これがファベルジュの卵アルか! これがあれば、『地獄のマシン』への門が開くアルなー。地球の自転エネルギーが、ファラオの物になるのも、もうすぐアル。そして私は、他の総督に・・・おっと、喋りすぎてしまったようアルな」
一同:(必死で笑いを押し殺している)
GM/ウー・ハン:「もうここに用はないアル。すぐに飛行場へ戻って、オーロシュへ向けて出発アル!」
ウー・ハンのおかげで多くのことが判る。地球の自転が止まったのは、「地獄のマシン」と呼ばれる機械の所為。それは恐らくオーロシュにあり、そこへ行くには「ファベルジュの卵」が必要となる。ナイル帝国のファラオことDr.メビウスは、「地獄のマシン」から地球の自転エネルギーを手に入れようとしている。つまり、メビウスが自転エネルギーを奪うより前にマシンをどうにかできれば、地球の自転は回復する!
ストームナイトは急いで空港へ駆けつけ、目的地を割り出し(ナイルの飛行機へ忍び込み地図を盗む)交通手段を確保する(昔の仲間を〈説得〉して飛行機をレンタル)。ところが、
シンバ:「オレ、このひこうきで、行く」
リック:「おい、お前1人で大丈夫かよ?」
シンバがウー・ハンの飛行機に潜んでそのままオーロシュへ行くと宣言。リックは他の2人のところへ地図を持って帰らねばならないので、彼の身を案じながら引き返す。
そして、リック、メアリィ、亮の乗った飛行機は、夕焼けのフィラデルフィアを飛び立った。
幕間
カード交換の際、シンバと亮が立て続けにサイドストーリーカード“ロマンス”を引く。よりにもよってロマンス。今日のシナリオには女性NPCが1人も出てこないというのに。こんなケースはきわめて珍しいから、どうにかして女性を出し、予定調和ではない物語を楽しんでもらいたい。GMは腹をくくった・・・。
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