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TORGプレイレポート
『HOPE』
〜世界の中心で愛を叫んだけもの〜
第一幕
ここ香港では、アジア諸国の要人が一堂に会し、世界各地で激しさを増すポシビリティ戦争への対抗策を話し合う、国際会議が開かれようとしていた。会場に選ばれたのは、つい先日完成したばかりの、船の形をしたホテル(*2)。
時刻は夜。香港に到着したジョンは、そびえ立つホテルにすぐに気づく。
ジョン:「あの船は、何だい?」
「どうもあのホテルは、タイタニックらしいぜ」
ジョン:「私はてっきり、この後洪水が起きて、あれがノアの方舟になるのかと思ったよ」
「お、旦那、学があるねぇ」
その時、ジョンのすぐ近くに、故郷でよく見るような黒塗りの馬車が停まる。
中から、黒いヴェールで頭と顔をすっぽり覆った淑女が、滑るように降りてくる。
淑女は、周囲の様子をまるで気にせず、ホテルの方へ歩いていく。
通行人は不思議と淑女を避け、遮る者は誰もいない。
さらに、淑女の後ろを、背中の曲がった御者が、棺桶を引きずりながらついて行く。
明らかに、ジョンと同じ世界から来た、招かれざる客。彼は不敵に微笑み、淑女たちの後を追う。
ジョン:「旅には素敵な出会いがつきものだからな」
香港返還式典の時(*3)と同様に、イリスとディアンには、アイルの外交官特権が与えられている。
到着したホテルの警備体制は、やけに物々しい。理由を訊くと、「国際会議に乗じて、テロ行為を働く輩がいるかもしれないから」。
イリス:「そんなことになったら、大変じゃないですか!」
ディアン:「そうだな。イリス。早くジルコニアを見つけて、止めなくては」
ホテルの中には、運河が流れており、船で移動することができる。2人の乗る船に、もう一艘が近づく。
渡辺:「渡辺明と申します。嵐王寺財閥、嵐王寺勇人総帥より、皆さんに協力するよう言われています」
流れるように名刺を差し出す渡辺。彼は、ここへ来るまでに、世界的に有名なストームナイトであるディアンが、表向きは外交官として、国際会議の開かれるホテルを訪問予定であること、ホテルのオーナーが龍嘉誠であること、そして、ホテルのお披露目を兼ねて、龍嘉誠が国際会議の前に「とあるイベント」を企画していることを、調べ上げていた。
一方その頃、ホテルの裏の搬入口に、馬鹿でっかいトレーラーで乗り付けて、誰何される男がいた。
「ワタシはホテルの客アル! 金ならきちんと払ったアルよ!」
ナイル帝国総督ウー・ハンに、従業員は礼儀正しく尋ねる。
「お客様。このお荷物は、何でしょうか」
「これは、ワタシの国から持ち込んだ、外交上必要なものアル。近づいてはいけないアルよ」
同じ頃、ホテルの正面玄関には、超高級リムジンから降り立つ、ひとりの老人の姿があった。
「オーナー。お待ちしておりました。早速ですが、オークション会場のご確認を」
渡辺:「そこの御仁。ヴィクトリアの方とお見受けする。香港には何をしに?」
渡辺はさらに、船ですぐ脇を通り過ぎようとしたヴィクトリア人、ジョンを呼び止める。明らかに場違いな人間がいる、と判断したのだ(ビジネスマンとプレートメイルの騎士と地味な色のフードの小さな魔女という取り合わせも、充分に奇妙ではあるが)。
ジョン:「観光、って言っても信じないよね? 私はジョン・アンダーソン。ここには、ヴァンパイアを追ってきた」
渡辺:「ヴァンパイア?」
その時、周囲に異変が起きる。
妙に濃い霧が立ち込める。運河の中央で、水が渦を巻き始める。水の精霊が、悪しき力で狂わされているのだと、イリスは直感する。
ラウンド進行開始。イリスはまず、【スピーク・ウィズ・エレメンタル・スピリット】の呪文で、水の精霊との直接対話を試みる。
イリス:「落ち着きなさい!」
見ることも触れることもできぬはずの水の精霊が、イリスの声に応えて形を取る。渡辺はゆっくりとした口調で、精霊に語り掛ける。
渡辺:「きみをそのように苦しめているのは、一体誰だい?」
『わかんないけどおこ! おこだお! 全部沈めてやるお!』
渡辺:「船を沈めれば、きみの気持ちは楽になるのかい? その気持ちは、誰かに仕組まれたものかもしれないよ」
狂乱状態にあった水の精霊が、おとなしくなる。渡辺の交渉術に、イリスは感銘を受ける。
ジョン:「この霧は、ヴァンパイアだ。向こうにいる」
ディアン:「ジョン。オレにつかまって」
ディアンは、ジョンを抱えて反対の岸までジャンプ。腰を抜かしている老人と付き人を背にかばい、十字架を模して剣を逆さに構える。
ディアン:「ストームナイト、ディアン・オブロー。闇の者よ、手出しはさせない!」
コウモリが寄り集まって淑女の形を取る。その瞳は血のように赤い。
ジョン:「お前の姿を見つけて、ここまで追ってきた。もう逃がさないぞ」
「頑張りますね、ハンターさん。お名前を聞かせてくださらない?」
ジョン:「アンダーソン。ジョン・アンダーソンだ」
「私はサラサ。・・・そこのお嬢さん。可哀想に、怯えているのね。部屋の隅のクローゼットの中にお逃げなさい。最後に優しく抱きしめてあげる」
水の精霊の騒動を収拾し、近づこうとしていたイリスは、飛び上がらんばかりに驚いて、身をすくめる。
サラサは渡辺に一瞥をくれると、唇の端をつり上げる。
「あなた、なかなか趣味がいいわね。カラード(*4)をポーターにしているなんて」
ディアン「黙れ。ワタナベは、オレの友だ」
「そうね。ペットも家族だものね!」
激情に駆られるディアンを押し留めたのは、侮辱された当人、渡辺の落ち着いた声だった。
渡辺:「ご両人。一旦、矛を収めるといい。これ以上ここでやり合うのは得策ではないだろう」
「興が削がれた、と言いたいところだけど、素直に認めましょう。あなたたちの力は尋常ではない」
ジョン:「普通のヴァンパイアハンターなら、お前を必ず滅ぼしてやる、と言うだろうが、私は違う」
「?」
全員の視線を一身に集め、ジョンはキメ顔でサラサに指を突き付ける。
ジョン:「待っていろ。お前の腹筋をぶち壊してやる」
サラサは流石に意表を突かれた様子で、無数のコウモリに変化し、霧と共にその場を去る。
と、近くから拍手が聞こえる。
「いやぁ、ブラボーブラボー。度胸の座った若者たちだ」
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