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TORGプレイレポート

『HOPE』

〜世界の中心で愛を叫んだけもの〜

 

第二幕

 
 ストームナイトに拍手する、質素な衣服の老人は、先ほどの水の精霊、あるいはヴァンパイアとのやりとりを、ずっと見ていた。にもかかわらず、怯えた様子が全くない。普段の生活で、生命を狙われることぐらいあるよね、と言わんばかりに落ち着いている。

「オーナー! 大丈夫ですか!」
 オーナーと呼ばれた老人が、ディアンの近くで慌てふためいているのをちらりと見てから、彼は4人に向き直る。
「わたしのホテルの警備について、もっと真剣に考えなかったことこそが、わたしの落ち度だ。ありがとう。いかなる礼でもしよう」
 

渡辺:「なるほど。あなたが本物の、龍大人(ロンターレン)でしたか」

ディアン:「えっ?」

「ああ、そこにいるのはわたしの影武者です。あなたの世界では、身分を偽ることは好まれないのでしたね」

 
 言葉とは裏腹に、アイルから来たイリスとディアンがどう思っていようが、意に介する様子はない。常在戦場、一筋縄ではいかぬビジネスマン。渡辺は心の中で龍嘉誠(ロン・カシン)をそう評すと、警戒レベルを最大まで高める。

 龍嘉誠によると、今夜このホテルでは、チャリティ・オークションが開催されるとのことだった。目玉商品は、アメリカ合衆国が売りに出した、青く美しい「ホープ・ダイヤ」。ホテルのオーナーである彼は、自らそれを落札し、代金を合衆国に「寄付」することで、宣伝と節税を同時に行おうとしていた。

 ホープ・ダイヤには、呪いの力があると言われている。龍嘉誠はそのような「非現実的」な力を一笑に付しているが、精霊をも手懐ける魔法使いのイリスと、ヴァンパイアも一目置くハンターのジョンが、懸念を表明すると、困った顔になる。
 

「そんなものだと知っていたら、手を出さなかったかもしれないな」

渡辺:「今からでも遅くありません。龍大人、考え直し・・・」

「実はもう、内々に買う約束をしてしまったのだよ。あとは、契約書にサインをするだけだ」

 
 イリスがディアンのマントの裾を引く。
 

イリス:「気になることがあります。ジルコニアという名前の宝石があって、それは、ダイヤモンドの代用品として使われるんです。私たちが追っている、魔法使いのジルコニアが、もしも、ホープ・ダイヤを狙っているとしたら・・・」

 
 その時、ホテルに火災報知器のベルが鳴り響いた。
 

 出火元は下層階。搬入口の近くは、恐ろしく高温になり、ウー・ハンの持ち込んだ荷物=巨大な「檻」の中で、「それ」は苦しんだ。怪力を発揮し、金属の檻をぐにゃりと曲げて、外へ逃げ出した。そして、何か不可思議な力に突き動かされるように、ホテルの外壁を登り始めた。

 さらにもうひとつ、異変が起きていた。ホテル屋上のプールで、水の精霊が突如狂乱状態に陥った。それによって、プールの水が大量に溢れ、階下へ押し寄せようとしていた。

 上は大水、下は大火事。延焼を防ぐために降りたシャッターによって、地上への脱出経路は塞がれてしまう。宿泊客や、ショッピングを楽しんでいた客は、パニックを起こすばかり。
 渡辺は、龍嘉誠に頼んでオークション用の大広間を開放してもらい、そこに客を集める。
 

ディアン:「オレたちは、ストームナイト。大丈夫だ。必ず、助ける」

 
 ディアンが客に向かって頷くと、チャイナ服ナマズ髭の男が、びくっ! と身を震わせ、気づかれぬようにそっと出て行こうとする。
 

ジョン:「よう! 久しぶりだな!」

 
 ジョンに呼び止められ、その男の努力は水泡に帰す。
「お、おう、久しぶり・・・アルな」
 

ディアン:「ウー・ハン?!」

ジョン:「なんだディアン。きみはこいつの知り合いか」

ディアン:「ナイル帝国十総督のひとりだ。(向き直って)ウー・ハン! 今度はどんな悪事を働こうとしている?」

「失礼アルよ! 人の顔を見たら、まるで悪党みたいに!」

ディアン:「違うのか?」

「いや、そんなことないアル」

ディアン:「あるのかないのかどっちだ!」

 
 渡辺は、「確実にこのやり取りはグダる」と判断し、ウー・ハンと仲間たちを中華料理店の個室に連れ込む。回転テーブルでウー・ハンの真正面に座り、腕を組んで開口一番、
 

渡辺:「計算外でしょ?」

 
「まったくアル。火事が起きるなんて、聞いてないアルよ」
 まるで呪われてるみたいアル、とぼやいて龍嘉誠を見るウー・ハン。
「おかげで、ワタシが外交の切り札として持ち込んだものが、予想より早く、ワタシの制御を離れた感があるアル」
 

ディアン:「切り札、とは?」

「ふん、話すわけがないアル」

 
 イリスは【アウェイ・サイト】(遠見)の呪文を試みる。水晶玉を両手で抱え、意識を上空に飛ばす。鳥の目のように辺りを見渡し、そして気づく。巨大なゴリラが、今自分たちが閉じ込められているホテルの外壁を、よじ登っていることに。
 

ジョン:「え? マスター、ここにキングコングを盛るの?」

GM:「当たり前じゃないですか! 盛れるだけ盛りますよ、映画ネタ!」

 
 ガシャーン! 窓ガラスを突き破り、巨大な手が室内に差し込まれる。その手はイリスを握りしめ、窓の外に消える。
 

ディアン:「イリス!」

 
 血相を変えて窓に駆け寄るディアン。しかしイリスは冷静だった。呪文を使って動物と話せるようにしてから、ゴリラを落ち着かせる、と宣言し、ダイスを振る。出目は1。リンク切断。あっという間に危機一髪!
 

渡辺:「ひょっとして、お前の切り札というのは、『あれ』?」

 
 渡辺が、懸命に冷静を装いつつ、親指で窓の外を指し示す。ウー・ハンは渡辺から目を逸らす。
「あれアル。中国のパンダ外交を真似て、ゴリラ外交というものをやってみようと思ったアル」
「こいつ殴りたい!」
 

渡辺:「今、この状況を何とかできる方法を、必死で考えろ。金ならいくらでも出す」

「えっ。・・・わかったアル」

渡辺:「おいお前、本当は金なんて必要ないのに、この機に乗じてふんだくろうとか考えてるんだったら、ぶっ飛ばすからな?」

 
 凄む渡辺に、ウー・ハンは再びびくっ! と身を震わせ、ゴリラの首に制御装置をつければ、おとなしくさせることができるはずだ、と話す。
 

ジョン:「問題は、どうやってその首輪をつけるか、だな」

「はっ! ビルの中は地獄! 外はゴリラ! 壁を登ろうなんて無理に決まっているアル! そんなことやろうとするヒーローがいるなら、顔を見てみたいアル!」

ディアン:「わかった。オレが行く!」

 
 ディアンが決意を込めてうなずく。渡辺は、命綱代わりに消火栓ホースをディアンの胴体に結びつける。たまらず口走るジョン。
 

ジョン:「そんな装備で大丈夫か?(*5)」

ディアン:「大丈夫だ。問題ない」

 
 しかし、実はこれがフラグだった。外壁を登る判定の、出目は1。ディアンのアクシオムレベルを超えた物品(消火栓)を使おうとして1を振ったため、リンク切断。一同騒然。

 何故か壁が崩れ、ホースがすっぽ抜ける! 落下するディアンに迫るは、死の運命のみ!
 ジョンが窓際に駆け寄り、鞭(*6)を振るって、ディアンの足を絡め取ろうとする。出目はまさかの1。確率8千分の1の大惨事。
 

ジョン:「きみが最後の希望だ」

 
 キメ顔で振り返ったジョンの視線を受け、渡辺の中で何かが壊れた。スーツの上着とYシャツを脱ぎ捨て、片腕でディアンをキャッチ!
 

渡辺:「ウー・ハンっ!」

「合点承知アルっ!」

 
 ウー・ハンは自動販売機で嵐王寺グループのエナジードリンクを購入し、渡辺にトスする。彼は一気にそれを飲み干し、
「ファイトォー!」
「一発ぁぁつっっ!」
 

 こうしてディアンは命を救われ、イリスはリンクを回復してゴリラをなだめ、危機を脱する。
 ホープ・ダイヤの呪いとしか思えぬような状況の連続に、ジョンの予告通り、全員の腹筋がぶち壊れそうになったのだった。

(→Act 3)
 


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