Eternal Smile > I Have No Mouth, and I Must Scream
TORGプレイレポート
『I Have No Mouth, and I Must Scream』
(おれには口がない、それでもおれは叫ぶ)
【CAST】
神崎龍信(かんざき・りゅうしん) | (20) | 剣術家 | /コアアース |
マルセル・バルボー | (30代後半) | 元異端審問官 | /サイバー教皇領 |
フリオ・アルジェント | (35) | 復讐の鬼 | /ナイル帝国 |
牧野芹奈(まきの・せりな) | (25) | 火士ハッカー | /ニッポンテック |
第一幕
フランスのとある片田舎。郵便配達夫が、荷馬車を道端に停め、石に腰掛けて休憩していた。
一見、ごくありふれた農村の風景のようだが、実は違う。ここは、サイバー教皇領内に作られた、もうひとつの現実、ゴッドネットの中だ。
私たちは、フィクサー(仲介人)の手引きで、ゴッドネットへジャックイン(潜入)した。
私たちのビジネスは、あの荷馬車の中から、プロテクトコードの記された1通の封書を入手することだった。
潜入任務ということもあり、私は端から見ても怪しまれないように、現地に溶け込んだ服装をしていた。髪の色も瞳の色も、アバター(外見)は自由自在。なかなか便利だ。
ふと、愛用のモバイルPCに目を落とすと、今回一緒に任務に当たる相手から、秘匿回線で呼び掛けがあった。
『女、聞こえているか』
「女性に対しては、もう少しお行儀よく話された方が印象が良いと思いますよ」
『ほう。女として扱った方がいいのか。確かお前には旦那がいた筈だが』
予想もつかない返答に、二の句が告げずにいると、相手は少し考えてから言い直した。
『では、お前をプロフェッショナルとして扱おう。牧野。聞こえるか』
「メルシー、ムッシュー・バルボー。よく聞こえています」
『お前はネットワークの専門家だ。お前はどう思う? プロテクトを解除して、地獄の蓋を開く。そして地獄から、囚われた魂を助け出すという、この依頼を』
私の名は牧野芹奈。故あってアイルに亡命し、ハッキングの技術を活かしてストームナイト稼業をしている。
夫はこの前、元ハイロードを倒す、なんて派手なことをして、世界的な有名人になった。でも彼は、名誉にかぶれているせいで、無報酬で仕事を請けるなんてことを平気でする。経済観念が欠如している彼の代わりに、私が働かざるを得ないのだ。
閑話休題。
ムッシュー・バルボーの方が、フランスの常識には詳しいはずだ。それでも私の意見を求めてくれたことに、私は溜飲を下げつつ答えた。
「プロテクトを解いた瞬間、一気にここが地獄に変わる、などというビジネス。何か裏があるのだと思いますけど、確証を得るだけの時間を、フィクサーは与えてくれませんでした」
『時間は俺が稼ぐ。俺はお前たち3人よりはるかに目立ち、はるかに悪名が轟いているからな』
「私は、封書を手に入れたら、プロテクトを解かずにここから脱出することも考えています」
フィクサーを名乗る女性は、何故私たち4人をわざわざゴッドネットへ送り込んだのか。腕の立つ剣術家の神崎さんや、根っからの善人のフリオさんは、無辜の人々の魂を地獄から救い出す際に荒事が予想されるから、という説明で納得がいく。でも私に戦闘能力は全くない。さらに、ムッシュー・バルボーは、サイバー教会を裏切った、元異端審問官だ。このような人選をしたフィクサーに、私が警戒心を抱くのは、当然と言えるだろう。
ともあれ作戦開始。ムッシュー・バルボーが、大胆にも異端審問官の服装のままで、郵便配達夫の前に立った。名乗りを聞いて、相手が恐慌状態に陥るのが見えた。
私は「間違って投函してしまった封書を回収させてください」と嘘をつき、目的物を探し始めた。ここはゴッドネットの中だから封書の形を取っているが、その実体は厳重なプロテクトのかかったプログラム。だから私は、モバイルPCをアバターの一部として持ち込んだのだ。
配達夫がSOSを送ったらしく、即座に教会警察が駆けつけた。暴徒鎮圧用のドローン・ウルフも一緒だ。フリオさんはウルフの前に自然体で立ち、次の瞬間、私は彼の背後に、マンガのコマ割りの集中線を見た気がした。何とも説明しづらい力、強いて言うならマンガの登場人物の特殊能力が働いたかのようだった。するとウルフはお腹を見せて従属のポーズを取った。
教会警察が、 SF映画のように光を放つ剣を振りかぶった。神崎さんは、脇差で難なく攻撃を受け止め、お前では俺に勝てないと諭した。相手を逆上させるのに充分な言葉だった。これは場合によっては逆効果で、増援を呼ばれる危険性がある。私は封書の捜索を急いだ。
『発見したようね。さぁ、早くプロテクトを』
フィクサーから、間髪入れずに通信が入った。
「申し訳ありませんが、ここでは落ち着かなくて、うまく解除できませんでした」
『そう。・・・なら、私がやるわ』
フィクサーが、ゴッドネットの外から封書のプロテクトを解除した。止めようとしたが、間に合わなかった。
地獄の門が開いた。
ゴッドネットの背景が、目まぐるしく書き換わっていった。エレベーターで深い階層まで降りていっているようだった。そして、地獄の奥底から、無数の触手を持った巨大な怪物が姿を現した。
あれは・・・何?
怒りと無力感で呆然とする私の耳に、神崎さんの声が届いた。
「みんなの魂を、助けなくちゃ!」
ああ、彼は本当に、ストームナイトなんだわ。私が失ってしまった真っ直ぐさや、美しい正義感を、彼は持っている。
「救出対象者のプロファイルを渡せ」
ムッシュー・バルボーの、感情を押し殺したような声に応じ、フィクサーがデータを転送した。
とある救出対象者の反応が、怪物の内部にあった。フィクサーが息を飲む気配がした。
怪物が何もない空間に触手を伸ばすと、世界各地のサイバー空間の様子が映し出された。どうやら怪物は、ゴッドネットから外界へアクセスする能力を持っているようだった。
その中のひとつ、ニッポンで流行のネットゲームの画面を、怪物は凝視していた。マスコットキャラの猫耳少女が、こちらを振り向いた。
怪物は、少女に引き寄せられるように、地獄から消えた。
程なく、周囲の空間にほころびが生じ始めた。私たちは、神崎さんが懸命に助けた魂を連れて、ゴッドネットからジャックアウト(脱出)した。
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