Eternal Smile > I Have No Mouth, and I Must Scream
 

 
TORGプレイレポート

『I Have No Mouth, and I Must Scream』

(おれには口がない、それでもおれは叫ぶ)

 

第三幕

 
 私は、常にプロフェッショナルとしての誇りを持って、ビジネスに当たっている。
 フィクサーは、私の誇りを傷つけた。

 私は彼女に復讐したい。
 あれだけ明確に敵対行動を取ってくれたのだから、落とし前はきっちりつけてもらう。
 場合によっては、私が彼女に銃口を突きつけて引き金を引いても構わない。

 そう思っていた。

 
シーン1

 マルセルが私たちを呼び出した。
「これを見ろ。俺が探し出した、フィクサーのプロファイルだ」

 そこには、大原節子の名前があった。

「どういうことだ? 原エリスのマネージャーが、フィクサーだって言うのか?」
 神崎さんがマルセルに尋ねた。
「もっと他の人だったら、可能性があると思うけど。例えば、カリーナとか」

 カリーナという女スパイのことは、私も気になっていた。フランスで消息を絶ったという彼女が、もし生きていればだけど、一番の容疑者と言っても過言ではないと思う。レイ・ハーソンとも関わりが深そうだし。

 私たちの疑問は、マルセルの次の一言で綺麗に氷解した。
 カリーナは、骨格レベルで整形手術をして、大原節子という人物に成りすましているらしい。

「俺は、サイバー教会に弓引く背教者だ。カリーナが何故こうまでしてレイ・ハーソンを助けたかったのか。その事情によっては、芹奈、お前の復讐を俺が止めることになる」
 マルセルが私の瞳をじっと見つめた。彼の表情は冴えなかった。
 

 私は決心した。この3人にならば、私のことを少し話してもいいと思った。
「身元を偽ってまで成し遂げたいことがある・・・。私にも心当たりがありすぎるの」

 私は、ニッポンでは死んだ人間とされている。昔私は、とあるビジネスで捨て駒にされて、彼に命を救われ、彼と結ばれた。アイルに亡命し市民権を得て、今はロンドンで暮らしている。

 3人は黙って私の話を聞いていた。
「もし彼女に事情があるのなら、耳を貸さずに復讐しようとするほど、私は狭量ではないわ」
「ならば、あの女の真意を問いただす必要があるな」

 彼女の潜伏先は、探せばすぐに見つかった。話をつけるなら今夜だ。明日、原エリスは「ストこれ」に関する重大発表を行うと言っていた。マスコミの注目を集めるそのタイミングで、怪物やカリーナが何らかのアクションを起こす可能性が高い。
 

 マルセルと私が出掛けようとした、その時だった。

「俺は牧野さんに訊きたいな。今、幸せ?」

 不意打ちだった。私は思わず神崎さんに「えっ?」と訊き返し、頭の中で2つの人生・・・企業のために尽くしていた頃と、彼に助けられた後・・・について考え、たっぷり10秒ほど経ってから、小さくうなずいた。心なしか頬も赤かったと思う。
「そっか。じゃあ、牧野さんの選択は間違ってないよ」
 神崎さんが自信たっぷりにうなずき返してきた。・・・なんてずるいのかしら、この人は。

「俺はイベント会場を見張って一晩過ごすことにするよ。さっきから妖刀がうなってるんだ。嫌な予感がする」
 私は胸を張って神崎さんに答えた。
「あなたが明日、迷いなく戦えるように、きちんと話をつけてきます。任せておいて。こう見えても私は、戦士の妻よ」
 

 因みに、フリオさんは、原エリスのところへ行くとのことだった。
 彼はどこか遠くを見るような目をして、こう言った。
「僕が言うのもなんだが、復讐は何も生まないぞ」
 それは、彼が淹れてくれたエスプレッソのように、とても苦く、重い言葉だった。
 

(→NEXT
 


PREVIOUS

back to Replay Library

back to Eternal Smile


"Eternal Smile" Since 2002.02.02
Copyright (C) 2002-2020 Charmy. All Rights Reserved.

E-mail:charmy_s@mac.com