Eternal Smile > I Have No Mouth, and I Must Scream
 

 
TORGプレイレポート

『I Have No Mouth, and I Must Scream』

(おれには口がない、それでもおれは叫ぶ)

 

第三幕

 
シーン3

 実用重視で、飾り気のないセーフハウス。大原節子ことカリーナは、そこで静かに私たちを待っていた。
 

 単刀直入に、私は一番気になっていることを訊いた。
「貴女は何故、原エリスの傍にいるの?」
「あの子を使えば、彼を操れるからよ」
「お前にとって、原エリスはどういう存在だ」
「決まってるじゃない。道具よ」

 最もそうであってほしくないと思っていた答えが、彼女から返ってきた。
「誰かさんが妨害しなければ、もっと楽に、あの人は私のものになる筈だったのに。既婚者のくせに、人の恋路に横槍を入れるのは、感心しないわね」

 私はすっと目を細めた。言わせておけば、随分失礼じゃない。売られた喧嘩は買わせてもらいましょう。
「あら。惚れた男の心を掴んでおけない貴女が悪いのよ」

 私の言葉の刃を、カリーナは真正面から受け止め、挑戦的に笑った。
「あたしたちは、世界に復讐するの。あたしたちにはその権利がある。あたしたちの可能性は、世界に奪われたのだから」
 

 フランスへ潜入した彼女たちは、サイバー教会に捕まったが、レイ・ハーソンが教会と取引をしてカリーナを逃がしたらしい。彼女の救援要請を、CIAは無視した。そして、レイ・ハーソンの魂は怪物の器に囚われた。

「あの人はあたしを逃がす時、『妻と娘を頼む』って言ったの。一緒に地獄に落ちようとは言ってくれなかった・・・!」

 恨みの声が胸に突き刺さった。
 組織から切り捨てられ、傷ついた彼女に救いの手を差し伸べられるのは、レイ・ハーソンだけ。なのに、当の彼は別の女性の方を見ている。
 何も言えなかった。どんな言葉も彼女の慰めにはならない。
 我ながら情けない。神崎さんにあんな風に請け負っておきながら、言葉が出なくなるなんて。
 

 この場の沈黙を打ち破ったのは、マルセルだった。

「カリーナ。・・・つらかったんだな」

 予想外の言葉だった。カリーナは口をぎゅっと結んでマルセルをにらんだ。
「お前がどれくらいつらかったのか、俺はお前ではないから解らない。だが、お前がつらかったという事実だけは、芹奈にも、悪く言わせるつもりはない。お前は間違いなくつらかったんだ」

 マルセルはカリーナを抱きしめた。突然のことに面食らい、彼女は数秒間抵抗を忘れた。
「何のつもり?」
「俺たちストームナイトは、奪われた可能性を取り戻す存在だ。だから、お前が誰かの可能性を奪うと言うのなら、俺たちはお前を止めなくてはいけない」

 マルセルの義眼が鈍く光った。
「それでもこの世界に復讐したいなら、レイ・ハーソン・・・地獄に堕ちた哀れな犠牲者とお前で、俺たちを潰してみろ。お前にはその権利がある」
「判りやすいわね。勝った方が正しいのよ」
 

「・・・行くぞ」
 マルセルが私に声を掛けた。カリーナが吐き捨てるように言った。
「ふん。幸せそうな目」
 

 扉が閉まる音。もう耐えられなかった。
「マルセル。ちょっと借りるわ」

 私はマルセルの胸に顔をうずめて泣いた。
 幸せになる権利は誰にでもある。そう思っていた。思いたかった。信じたかった。なのに、彼女は・・・。

 もう、復讐することにしか、彼女が生き甲斐を見いだすことはできないのだろうか。
 

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