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TORG『トライアングラー』サイドストーリー

「Dream of You」

Presented by ありま

 

ないている。

あれは。
あれはわたしだ。
あのちいさなおんなのこはわたし。

めのまえになにかひかるものがみえる。
ちいさなペンダント。
 

「これは『希望』なんだ」

とてもあたたかいこえ。
このあたたかいこえはおとうさん。

きぼう?
ちいさなわたしにはすこしむずかしいことば。
 

「神はノアに言われた。『すべて肉なるものを終わらせる時が、私の前に来ている。
 彼らの故に不法が地に満ちている。 見よ、私は地もろとも彼らを滅ぼす』ってね。
 その御告げから7日後、大雨が40日40夜も降り続いて世界は水没してしまったんだ」
 

せかいじゅうが、うみになっちゃったの?
「そうだよ。今のお前の顔みたいに、水浸しさ」
おとうさんはえがおをうかべながら、わたしのなみだをぬぐってくれた。
 

「ノアは神の導きにより、7日のうちに大きな方舟を作り、
 家族と潔い動物7つがい、潔くない動物2つがい、鳥7つがいと共に方舟に乗っていた。
 おかげで大洪水からは逃れられたんだが、なにせ世界中が水浸しだ。
 このままではどうしようもない」
 

うみはきれいだし、おふねはたのしいけれど、ずっとそこはいやかもしれない。
じぶんのかぞくや、どうぶつだけ、しかいないのも、へんだ。
 

「どこか水が引いた土地を探すためにノアは鳥を放とうとした。
 だが初めに放そうとした鳥は『自分たちはひとつがいしかおらず、
 自分が死ねば全種族が絶滅してしまう、別の鳥にしてくれ』と不平を言った」
 

だれかがやらなくちゃいけないこと?
ちいさなわたしにはすごくむずかしいもんだい。
 

「その次に頼まれたのは、鳩だった。
 すると鳩は何一つ不平を言う事なく、空へと放たれていったんだ」
 

はとはこわくなかったのかな。
そんなことないよね。
だって。
わたしはノアがふへいをききいれず、そのとりをそらにはなった、というせつもあることをしっている。
 

「しかし鳩は地上にとまる所が見つからず、方舟に戻ってきてしまった。
 そうして少しづつ、みんな絶望していったんだ」
 

ぜつぼう?
ちいさなわたしにはすこしむずかしいことば。
でも。
それはとてもつらいこと。
だから。
みんながそうなるのが、かぞくをのこし、ひとりでそらにとびたつより、こわかったんだとおもう。
 

「さらに7日後、ノアはふたたび鳩を放った。
 やはりしばらくすると鳩は方舟に戻ってきてしまった。みんなはさらに落胆した。
 いつ終わるとも知れぬ苦しみの、さらに先が見えなくなる時、人は絶望するものだから。
 だがよく見れば、鳩はその嘴に何かをくわえていた。それはオリーブの小枝だった。
 それを見て、みんなは世界から水が引き始めていることを知った。
 こうして絶望は希望に変わったんだ」
 

そうしておとうさんは、またペンダントをわたしのめのまえにかかげた。
そこにかたどられているのは、オリーブをくわえたはと。
ひかりがきらきらして、とてもきれいだった。
 

「もう7日した後、ノアは鳩を空へと放った。今度はいつまで待っても鳩は帰って来なかった。
 そして大地から水は引いたと分かり、ノアたちは方舟から大地へと戻ることができたのさ」
 

わたしのなみだはとまっていた。
 

「あらあらお父さん
 ジェシカに難しい話ばかりしないでくださいな
 もうすぐ年頃なんですから」

「まあまあそう言わないでくれよ母さん
 こんな話ができるのも今ぐらいなんだから」
 

「幸せになりなさい」
「幸せになるんだよ」
 

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泣いていた。

これは。
これは夢だ。
これが夢だってことぐらい分かっている。

私の両親は抑圧されていた人々のために生き、最後は帰って来なかった。
私の両親は、あの勇気ある鳩と同じだった。

その両親の娘である私も、やっぱり鳩だった。
羽ばたいたら二度と戻らない。
はず、だった。

私の手をつかんでくれた人がいた。
私の心に呼びかけてくれた人がいた。
私のために剣を振るってくれた人がいた。
私が囚われた間違いを正してくれた人がいた。

そして嵐の中に、彼がいた。

だから私は帰って来られた。
彼らにはどんなに感謝しても足りない。

牢獄という名の籠の鳥にはなったけれど、それは犯した罪への報い。
どんな労苦も当然のことだと思っているし、その意味では辛いと思ったことはない。
己の罪を償うことも、何かを前に進めることに繋がるのだから。
 

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でも、彼が魔剣に導かれ、私と同じような過ち……というのは酷かもしれないけれど、
その結果に苦しむことになったと聞いた時だけは、どんなに彼の力になりたいと思い、
そばに行きたいと願っても、それが叶わないことが辛かった。

こんな私でも彼のためにできることがある、と思ったから。
彼の生き方はとても不器用で、笑う人もいるけれど、私も同じだから。
彼が魔剣の導きを受けた理由も、私には実感としてよく分かる。
だから普通の人には分からない苦しみだって、私なら分かってあげられるはず。

でも、心の片隅で、彼が私と似た境遇になったことを、『同罪』になったことを、
決して望んではいけないことを、喜んでいる自分がいる、という自覚があった。

贖罪をしなければならない咎人だというのに、私はなんて浅ましい女なのだろう。
自分で自分が気持ち悪くなって、何度も吐いた。
こんなに浅ましい私を、吐き出してしまいたかったのかもしれない。
 

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かつて、私のことをまるで姫のように敬い、仕えてくれた一人の騎士がいた。
己を殺し、まさに滅私奉公と言っていい姿だった。
当時から思っていたけれど、改めて考えてみても、私にそこまでの価値はなかったと思う。
私の両親の活動に救われたからだ、とは言っていたのだけれど。
本当はそれだけ、ではなかったのだけれど。

あの騎士とは、地上よりとても遠い処とで離ればなれになってしまった。
でも、不思議と死んでしまったという気はしない。

今の私がこうしてあるのも、彼の尽力あってのこと。
彼は私に笑顔を向けたことは一度もなかったけれど、本当は私は彼の笑顔を知っている。
でも、彼はそれを知らなかったはず。

私はもう一度考える。
きっと幼い日の私は、彼とまずは友達になりたかったんだと思う。

また、貴方と話したい。
いつか、そよ風の中で、話がしたい。
 

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私は、咎人。
私は、人間。
私は、女。

報いを受ける身の私は、たとえ報われなくても構わない。
私の大切に思うみんながいつか報われてくれさえすれば。

私を愛し育んでくれた人たちのために、
私を救ってくれた人たちのために、
もう二度と自分を犠牲にしさえすればいいなんて思わない。

それでも、私の心は羽ばたくことをやめようとしない。
それは恐いことだけど、私にはもっと辛いことがある。

いつかまた空へ放たれることがあるのなら、オリーブの枝を見つけよう。
 

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私は、彼を愛している。
彼を愛しているのが、私。

私はそっとペンダントを握りしめて、祈る。

私に勇気を、ください。

 
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